否唯なしに。

否唯なしに。

否唯なしに。

バーガンディーのリボン

 偶に雨が降ると通勤に電車を使う。帰る頃にはすっかり夜も更けて最寄駅で降りる人々は皆、今日という重荷を背負って足を運ぶ。そんなふわふわとした、取り留めのない現実と夢との狭間で、一際目立つリボンを付けた鞄が目に入る。本体は真っ黒で闇夜にすっかり溶け込んでいるのに、バーガンディーのそれは疲れた人間の目を釘付けにして離さない。まるでこの世のものではない何かのように空間の一点に固定されている。言葉が出てこない。うまくそれを綴れない。なんとなく凝視しているのが辛くなってふっと目を離した。一瞬、リボンの持ち主と目があう。切れ長で底の浅いように見える瞳は、今日出会ったものの中で、一番綺麗な何かだった。

 

弥永唯 ー2022.08.28.