否唯なしに。

否唯なしに。

否唯なしに。

レモンティーが飲みたい時。

 人生で何度目かの彼女は、とにかく甘ったるいミルクティーが好きだった。寝起きだろうが部活前だろうが夕食だろうがなんだろうが、とにかく時と場合が許せばミルクティーのペットボトルを左手で弄んでいた。

 

曰く、

「世知辛い世の中なんだから、飲み物くらいには甘やかされないとね。」

というのが言い分らしかった。

 

 そんな年中ミルクティーと友好関係を築いているような彼女が、時々レモンティーを買って帰ってくる事があった。決まってその時の彼女は寡黙で、ずっと重い何かを引き摺っているようだった。何故レモンティーを買ってくるかは聞けなかった。

 

 その頃には彼女の影響で僕もミルクティーばかりを呑むようになっていたが、しばらくして彼女と別れたその夜に、実に数年ぶりくらいのレモンティーを喉に通した。弾けるような軽さとその透明感に惹かれるそれは、僕の全身に痺れて、心に巣食う何かを、丸ごと洗い流してくれるようだった。当時の僕にとって、それは酷くアイロニックな体験であって、湧き出る数々の感情の行き先を見失った僕の瞳は、気づいたら濡れていた。

 

 そうして今も僕は、時々レモンティーを手に取る。彼女がレモンティーに掬われていた日々を思い出しながら、魔法の飲み物に自身の全てを委ねるのだ。

 

 きっと、明日の自分は心晴れやかに最初の一歩を踏み出せる。そんな気がする。

 

おわり。