否唯なしに。

否唯なしに。

否唯なしに。

「現に掬ふ。」

 描きたい景色がある。

 その景色には自分によく似た人が居て

 それはひどく弱っているように見えて

 消え入りそうな唸り声をあげて、苦しむ。

 

 幾らか辺りを彷徨ったところで

 それは微かに輝く何かと邂逅する。

 それは何だろう、

 見たこともない妖精のような気もするし

 生涯を共にした旧友であるかもしれない。

 

 とにかく弱りきった私に似た何かは

 藁にもすがる気持ちで微かに輝くそれに触れる。

 すると急に、その輝くモヤモヤした何かは

 私に似た何かを包み込んで、七色に光出す。

 

 溢れ出す七色の隙間からは

 かつての私を構成してきた

 ありとあらゆる糧のシーンが見え隠れする。

 走馬灯のようで居て、少し違う、

 明日の私の為の、何ページかがパラパラと捲られる。

 

 今日までの私を模ってきた容れ物を

 汗と涙と本音が渦となって

 滝のように洗い流す。

 

 そうして、

 これまで私が歩んだ道のその直線上に

 見えるか見えないか、わからないくらい仄かな光の道みたいなモノが

 モヤモヤした耀く何かから漏れ出してくる。

 

 少しずつ、少しずつ。

 その道の先が見えなくなる頃には

 私に似た何かを覆っていた七色の光は消えて

 ここに残されたのは紛れもなく

 「私」と「明日への道」だけだ。

 

 まだ涙は溢れてくるけれど

 私は私自身の足で

 光の道を征く。

 

 その道は

 これまで私が歩いた道。

 これから私が歩く道。

 目的地がなくても

 その道に私にとっての意味がある。

 

 私が描きたいその景色は

 私を掬い、

 誘ってゆく夢の痕。

 

弥永唯 ー2022.04.06